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さっそく番外編〜Tokyo Opera Studio〜

皆さまこんにちは!

英語でピアノ®️認定講師の活動をご紹介しているこちらのコラムですが、第2回目にして早くも脱線(笑)。今回は、先月私が参加した特別な活動についてお届けします。

6月後半の2週間、東京に50名あまりのアメリカ人・カナダ人・ドイツ人などの歌手たちが集まり、Tokyo Opera StudioというSummer Program(夏期講習)が開催され、私はそこで、Music Director(音楽監督)の一人として参加しました。歌手たちは現役の大学生や大学院生からすでにプロとして活動している人まで様々でした。

プログラムを立ち上げたのはUniversity of Idahoの声楽科を率いるStefan Gordon准教授。今回はモーツァルトの「フィガロの結婚」と「魔笛」の二つの演目をどちらもダブルキャストで作り上げるという企画で、「フィガロ」のピアニストはStefanの友人のボーカル・コーチで私のフロリダ時代の友人でもあるGustavoと決まっていました。「魔笛」のピアニストとしては、そのGustavoが私をStefanに推薦してくれたとのことで、ありがたいことにお声がけいただきました。

ところで、プログラムがスタートするまではなぜ東京でオペラを学ぶのかという点がずっと疑問でした。しかし始めてみてわかったのは、アメリカなど海外から日本、特に東京に行ってみたいという人がとても多いという事でした。そのため、このプログラムは参加者の募集を開始したら私の予想を超える人気だったようです。リハーサルの合間には観光スケジュールがぎっしりで、東京の人間ではない私も観光客として渋谷や新宿を歩き回ったり、和楽器のコンサートや歌舞伎座に出かけたり、浅草観光や寿司、ラーメン、定食屋めぐりなど、キャストたちと日本文化をたっぷり満喫しました。

さて肝心のオペラですが、毎日3時間✖️2回のリハーサルがありました。私の担当した「魔笛」は繰り返しを省いたりレチタティーヴォを短縮しても上演時間は約2時間。楽譜は170ページほどあります。それを場面ごとにStage Directorが演出をして、アメリカからスーツケースに入れて持ってきた小道具を使って片方のキャストがやってみる、そしてもう片方のキャストも同じことをやってみる、ということを繰り返して初めの4〜5日間ほどでオペラのはじめから終わりまで一通り演技指導が終わりました。

そこからはrun through(通し稽古)を1日2回ずつ繰り返してはダメ出しするということを5日間やって合計10回通しました。毎日ヘトヘトでした。でもそのおかげで本番の日は「あれ、今日は1日1回しか弾かないから楽チンだ!」という感覚になりました。

このプログラムでは、本番でもオーケストラを使わず、指揮者もいないため、音楽を担当するのは私だけ!?という責任重大なお仕事でした。お話をいただいた時に薄々そういう仕事だろうと思ってはいたのですが、始まってから「やっぱり指揮者はいないのね。だから、私が音楽監督っていうポジションだったのね」と納得したのでした。

ダブルキャストだと、同じ役でも1日目と2日目の歌手ではブレスのタイミングやテンポも違いますし、演技しながら歌っているので楽譜に書かれていない「間」があったり、さらに年齢や経験値も違うのでそこは汲み取って演奏しなければなりません。でもこれがまさに私がアメリカの大学院で専攻した Collavorative Piano の知識・経験をフル活用できるお仕事!キャストが伸び伸びと歌える伴奏をすることを追求し、喜ばれることがとても楽しかったです。また、1日目の講演には渋谷かおり先生とACM日本支部代表の山田里沙先生が会場に聴きにきてくださり、初めて生演奏を聴いていただけたことも大変嬉しかったです。

今回、久しぶりにアメリカ人たちと行動していて私が留学生だった頃と全然違うなと思ったのはやはりAIの使用頻度の高さでした。東京の、あの複雑な電車の乗り換えをスイスイとこなしたり、レストランのメニューにスマホをかざすだけで一瞬で全部英語にしてどんどん注文したり、施設の予約などの交渉ごとも翻訳機能を使って日本語でやり取りする、といった場面をしょっちゅう目にしました。

しかしどうしてもAIが訳したメールはぎこちなさが残っており、「当方は英語対応できませんので日本語のわかる人を連れてきてください」などと言われた時には私が通訳として駆り出されたのでした(笑)。

また、大勢で一つのものを作り上げる時にとても大切なのは場の雰囲気だと改めて思いました。一度、Stage Director に「Can you do ~?」と指示されたことに対して即座に「No」と答えたキャストがいて現場が一瞬凍りついたことがありました。英語には日本語ほど様々な敬語の種類はありませんが相手を思いやった丁寧な表現はあります。いきなり“No”と言うのではなく、たとえば “Ok, I could do that, but…” や “I don’t know, but I’ll try.” のような言い回しであれば、相手への敬意を込めた前向きな返事になります。

今回は教育的プログラムであったため、その件だけでキャストを降ろされるというような事態にはなりませんでしたが、これがプロの歌劇団だったらそのキャストはもう使ってもらえなくなっていたかもしれません。

その他、日本到着前に喉を痛めてしまい、せっかく来たのに歌えなくなってしまった人や、日本で親知らずを抜歯することになった人、観光中に転んで足首を痛めた人、スーツケースが日本に届かず洋服を買いまくるしかなかった人、などトラブルは色々ありましたが、無事全ての公演を終えて最後にはみんな仲良くなれました。

今回興味深かったのは、日本にいながら一日中英語で生活していたという点です。今のところ、来年もこのプログラムは開催予定とのこと。もしまた関わる機会があれば、「英語でピアノ®️」コミュニティの皆さまとも、何かしらの形で接点を持てたら嬉しいなと思っています。その際は、ぜひご案内させていただきますね!

今月もお読みいただきましてありがとうございました!

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