コラム一覧へ

博士課程在籍中のお仕事 その2

みなさまこんにちは!とうとう本格的に寒くなり、忙しい年の瀬が迫ってきましたがいかがお過ごしでしょうか。今月もコラムにお立ち寄りくださりありがとうございます。

前回は博士課程に進んでから師匠のDr. Bridgerが下さった重要な仕事、ゲスト・アーティストとの共演について書きました。今回はもう一つ、私のドクター取得後を見据えてDr. Bridgerが下さった大事な仕事について書きたいと思います。

それは、Florida State Univeristy (=FSU) のあるTallahasseeという街から車で西に約2時間の、Panama Cityという街にあったGulf Coast Community College (現在はGulf Coast State Collegeと改名されています) での週1回の非常勤講師の仕事でした。

役職名はInstructor of PianoおよびVocal CoachそしてAccompanistでした。たくさん肩書きがありますが、要するにピアノの個人レッスンに加えて声楽科の学生のコーチと伴奏を担当するというお仕事です。この仕事をすることになった時、同じFSUのドクターの学生だったEvenというバリトンの友達も声楽のInstructorとして仕事をすることになったので、同僚になった私たちは車を1台で済ませるために毎週交代で運転して一緒に通勤することになりました。

Evanは私より数歳年下だったと思いますが歌手としても教師としてもとても尊敬できる人で、往復4時間の道中はいつも楽しい時間でした。その日勤務先であった出来事について話したり、お互いに恋愛相談をしたり、車の中で聴いた曲についてああだこうだと議論したり、アメリカの教育の問題点について教えてもらったり、話の内容は多岐に渡りました。私にとってこれは貴重な時間でした。

Gulf Coast Community College (=GCCC)は当時2年制の大学で、FSUのようにオーディションを受けて入るレベルの音楽学部ではなく、音楽の経験がゼロでも入学できるというタイプの学校だったので、教える内容はほとんどが初心者向けでした。中には音楽歴のある学生もいましたが、4小節の片手だけのメロディーを弾くのがやっと!?というぐらいの学生もたくさんおり、ちょっと驚きでした。

GCCCに勤務した中で一番笑ったのは、私が教えていたある男子学生の「いい波が来てたから」という欠席理由でした。ご存知の通りフロリダ州は海に突き出た半島なのでどの街からでも海に近いのですが、GCCCのあるPanama Cityも例外ではありませんでした。この男子学生は「先週はサーフィンのためにいい波が来ていたのでピアノのレッスンを欠席した」と次のレッスンに来た時ニヤリとしながら私に伝えたのでした。それを聞いて私は笑うしかありませんでした。

ピアノ科はそんなレベルでしたが(汗)、Evanが教えていた声楽科には今すぐブロードウェイのミュージカルに挑戦できそうだと思えるぐらい上手い学生もいました。こんな学校に突然驚くほど才能のある学生が入学してくる、などという点がとてもアメリカ的だなと思いました。そしてそんなレパートリーでも教えられるEvanもすごいと思いました。私の仕事はEvanの学生の伴奏をすることも含まれていたので、そういう学生がミュージカルの曲を持ってきたりするのも新しい経験で、楽しく伴奏をさせてもらいました。

こんな感じであまり緊張感のない職場のように思われるかもしれませんが(笑)、この非常勤講師の仕事はただの「経験」としてだけではなく、ドクター取得後に私が正規の教員に応募するときにとても役に立ったのでした。なぜなら、大学の教員にはTenure Truck Position(終身在職権がもらえるポジション)とそうでないポジションがあり、前者に応募するにはドクターを持っていることだけでなく「高等教育機関で教えた」という経験が必要になるからです。

私のFSUでのTeaching Assistantの仕事内容は(『Teaching』という名前がついていますが)「教える」という種類ではなく「演奏する」という仕事でしたので、「教えた経験」には該当しませんでした。そのため、Dr. Bridgerは私に教員経験をさせてくれたのです。もともとこの仕事は私が引き継ぐ以前から門下の先輩が1、2年だけ教えに行っては次の人にバトンタッチする、という流れで続いていたのですが、もちろん誰にでも回ってくるというわけではありませんので、短期間でしたが私は本当にラッキーだったと思います。

当時の契約書を見てみると、ピアノのレッスンは履修者一人につきいくらという給料設定で、学生の人数によってセメスターごとに変動していました。それに対して声楽科のレッスンや実技試験での伴奏などは人数に関係なく1セメスターあたりいくら、という設定でした。そのため私が受け取ったお給料はセメスターによって全然違いましたが、貧乏学生にとってはありがたい収入源でした。そして何よりもこの経験はその後の私の就職活動に本当に大事な経歴となったのでした。

Evanと勤務した時の写真は残っていなかったのですが、この時期に行なった博士課程必須の単位取得リサイタルのうち、声楽の曲ばかりを集めた私のリサイタルにEvanも出演してくれた時のビデオが残っていましたので画像がとても粗いのですがアップしてみたいと思います。

当日のプログラムは

ドビュッシー:テオドール・バンヴィルの7つの詩(ソプラノ・Christine Keene)

パサティエリ:オスカー・ワイルドの3つの詩(バリトン・Evan Jones)

ブラームス:5つの歌 作品72(バリトン・Jonathan Morales)

ファリャ:7つのスペイン民謡(コントラルト・Karen Esquivel、ダンス・Mar Hernandez)

でした。冒頭の写真はリサイタル後の出演者の写真です(Christineだけ写っていませんが)。最後のファリャの曲にはスペイン人の友達のMar(写真前列中央)が本物のスペインのカスタネットを使って踊りをつけてくれました。今回の動画はEvanとの共演1曲目です。

​​

次回はお仕事の話から離れて、夏に行ったギリシャ旅行について書きたいと思います!それではみなさま次回までStay warm!

コメントする