ピアノ指導は、音楽ルールを教えることが大事
【ピアノ指導は、音楽ルールを教えることが大事】
はじめまして。
埼玉県でピアノ教室を運営している小崎未樹子(おざきみきこ)です。
私は、ピアノ演奏というよりも、
音楽という「学びの力」を使って、
《どうしたら子供たちが積極的になれるか?》
そのためには
《どうしたら生徒主体のレッスンができるか?》
を日々模索しています。
こちらのコラムでは、
私が20年間学んできたアメリカ指導法をお伝えし、
皆さんのピアノライフの一助となれば嬉しいです。
これからよろしくお願いします。
さて今日は、
私が指導法を学ぶきっかけとなった
新講師の頃のお話しをしましょう。
小2のKちゃんのお話です。
Kちゃんは、音符は読めており練習も行っているようでした。
でもなかなかスムーズに弾けません。
そんなある時、
同じ音が繰り返されている(1度)動きなのに、
音名を1音ずつ確認しながら弾いていることに気づきました。
例えばこのような動きの部分です。
この動きは、
譜読みがスムーズにできる人にはこのように見えますが、
そうでない人は、
音符を1音ずつ確認している人にはこのように見えます。
譜読みがスムーズな人は、
音名も認識しつつ、音と音の「関係性」を読んでいます。
ところが、
音符の玉だけを見ている人は、
単なる「音名の羅列」にしか見えないのです。
英語で言えば、
「Apple」と単語単位で認識して欲しいのに、
「A、p、p・・次なんだっけ?」と、
文字単位で認識しようとする感覚に近いでしょうか。
これではスムーズな会話、
スムーズな音楽は表現できません。
譜読みも苦痛になってきます。
そして、このような「1音読み」をする方が
意外に多いことに気づきました。
もちろん
「譜読みは大変だけどピアノは楽しい!」と、
譜読みの苦労よりも
ピアノの楽しさの方が上回る方もいますが、
「譜読みが本当に苦痛だった」
「練習したけど弾けなかった」など、
ピアノレッスンに対してネガティブなイメージを持つ方も多いです。
《では、どうして「1音読み」になってしまうのでしょうか?》
原因は、
・音符の読み方のみの指導
・弾けない部分の指導不足
・音程など目に見えない部分の指導不足
だと思います。
恥ずかしながら私がそうでした。
しかも「譜読みは1音ずつ行うもの」と、
指導者である私が思い込んでおり、
・自分自身がどのように楽譜を見ているか?
・音符から指までどのような経路を辿って弾いているか?
など考えたこともなく指導を行っていました。
そしてKちゃんのレッスンを機に、
・同じ音符を見ても、認識は違う。
・「弾く」と「教える」は、全然違う。
・そして私は教え方を全く知らない・・・
ということを目の当たりにし、
指導法を勉強するに至りました。
色々学びましたが、中でも大きな収穫だったのが、
ペースメソッドの
「曲を教えるのではなく、
曲を使って音楽ルール(概念)を教える」ということです。
この考え方は、故萩原裕子先生も常々おっしゃっておられました。
例えば下のメロディー。
とても簡単ですが、もうすでに様々な音楽ルールがあります。
もし、これを弾くとしたら
どのような知識やテクニックが必要でしょうか?
例えば、
・4拍子
・同じテンポを感じる(ビート感)
・音価(音の長さ)
・音符の名前
・鍵盤の名前、場所
・ト音記号=右手、ヘ音記号=左手
・指番号
・隣の指を動かすテクニック
・左手3和音を弾くテクニック
・メロディーと伴奏の関係性
(右手がこのメロディーの時、どうして左手はドミソなのか?という理論)
などが挙げられます。
このような、ごく簡単なメロディーでさえも、
たくさんの音楽ルール(概念)があります。
そして
「曲を弾く=様々な音楽ルールの組み合わせ」
なのです。
ペースメソッドやピアノアドベンチャーなどのアメリカ教本は、
これらの一つひとつの音楽ルールを
曲を通じて学びます。
でもこのような音楽ルールは、
生徒への説明だけでは身につきません。
例えば、学校教育での「足し算」。
1、「加わる」という足し算の大ルールを知る
2、数字が変わってもできるか?とドリルで数をこなす
3、文章問題から、式を考えられるのか?
4、引き算という違う要素が加わっても解けるのか?
など、
様々な観点からでも解けるように養います。
ピアノ指導も同じです。
音符の読み方だけを教えるのではなく、
様々な音楽ルールを、
1、理論 2、テクニック 3、聴く(耳)
の、大きく分けて3つの観点から習得します。
そして、
それらが『生徒の中で連携している』が大事です。
よくあるケースは
・読譜は早いけど、聴いていない
・理論はわかるけど、指がスムーズに動かない
・知っている曲なら弾けるけど、読譜力が未熟
などでしょうか。
ちなみにこれらは全て、
内的聴覚(脳内で音を鳴らす能力)
に原因があることが多いです。
なので3つの観点ができたら
「移調」や「変奏」「即興」などの手法を使って
それぞれの連携や、習得の確認を行い、
最終的には「初見」で、
他の音楽ルールとの連携を確認します。
一般的に「初見」は、
「初めてだから、できなくても仕方がない・・・」
と思われがちですが、
違います。
初見は、
『今まで学んだ音楽ルールを、生徒自身が使いこなせているか?』
という復習で、
指導者からすると、
自分の指導に対する成績発表のようなものです。
実はこの様々な観点からの指導法は、
ペースメソッドに基づいており、
そのペースメソッドは、
教育心理学を取り入れて作られています。
教育心理学とは、
人が学ぶ仕組みを研究する分野です。
指導者の経験や勘ではなく
こうした科学に基づいているので、
『1つの音楽ルール(概念)を
様々な観点から習得する指導法』は、
多くのピアノ学習者にとって有効なのです。
その後アメリカで出版された、
バスティンやアルフレッド、ピアノアドヴェンチャーなど、
いずれも1つのレベルにつき複数の教本があるのは、
様々な観点から音楽ルールを学ぶためです。
そして指導者は、生徒が、
・何の音楽ルールをどの程度習得しているか?
・連携しているか?
の把握がとても重要なのです。
もちろん多少連携不足でも、
好きな曲を楽しんで弾くことがまずは大事です。
でも生徒が楽譜を見た時
自力で音楽ルールを見抜いて弾ければ、
盲目的な練習は避けられるのではないでしょうか?
「練習したけど弾けなかった・・・」と
落ち込むことも減るのではないでしょうか?
小崎 未樹子