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「ピアノ × 英語 × 認める感覚」

米国ピアノ指導者団体

アメリカン・カレッジ・オブ・ミュージシャンズ 日本支部

山田里紗

10年前。幼馴染が経営する寿司屋のカウンター席での出来事。

「英語でピアノを教える教室を始めようと思って、今ホームページとか準備してるんです」

「ねーちゃん、あのね、女がね、新しい事始めるの、すっげー大変なの。できるわけない」

常連のおじさんに近況を聞かれたから答えたら同時にお説教がスタート。

当時の私は25歳。

酔っ払いのおじさんは40代半ばの大手企業の御曹司。

10年前「英語でピアノを教える」というのは巷のオジさん達に

「女にはできない」と言わせてしまうくらい、珍しい事でした。

「英語でピアノ」「English piano lesson in Tokyo」と検索をかけると

私の教室と世田谷区経堂にあるAraya Piano Studioしか上位に上がって来ませんでした。

これもまた、とても希少なお教室のジャンルでした。

最近は音楽教室の大手などが音楽教育と語学の教育を掛け算し、

子供たちに新しい経験を提供しています。

18年教育に携わり、そして最近(特に東京の)子供達は色々事を経験をするオプションが広がり、

選択肢があると言うのはとても素晴らしい事だと思います。

25歳の時に思った事の一つに

「日本にはアメリカのように新しいアイデアを認める感覚がないな~」

例えばアメリカで新しく物事を始める際に筋が通っていれば

「that`s great!」「Sounds brilliant!」など、

例え建て前だけの言葉だったとしても・・・

背中を押してくれる人がいますが、日本はなかなかそうではない・・・

日本でアイディアを出すと「できるの?」「やめとけば?」「大変だよ」など

背中を押すよりも否定的な言葉が返って来ます。

文化の違いといえばそれまでです。

他の国の話と日本を比較しても・・・

しかし、そんな「別の国の話」として片付けられない時代が来年度から始まります。

2020年、教育改革。

ピアノの先生にはあまり馴染みのないトピックかと思い・・・

でも教育と携わるもの同士として、知識としては大切だと思い・・・

先日開催されたACM日本支部主催のセミナーでも触れさせてもらいました。

日本の子供達が文科省を通じてこれから学校教育で求められるもの、ご存知ですか?

1:学びに向かう力・人間性

どのように社会・世界と関わり、よりよい人生を送るか

2:知識・技能

なにを理解しているか、なにができるか

3:思考力・判断力・表現力等

理解していること・できることをどう使うか

困ってしまうのは「へ〜」で終わらせられるほど

子供を持つ親としては「普通で当たり前」の事だったりするからです・・・

でもよーく見つめて見ると、

なかなか難しい内容だったりしません?

例えば「思考力・判断力・表現力等」

これを音楽に繋げると子供達がジャズや即興を披露した時に、

大人が「認めてあげる」事が大切になってきます。

そして「認める、褒めること」

それは子供の能力を価値づけることに繋がるので、指導者の指導力も問われます。

アメリカでは個を認める事はとても大切で、

日本にも同じような事が当てはまる日がいつかくるかな?と思い、

ある日の大学の授業の内容をシェアしますね

ある日大学の授業で(あめりかで)ピアノ指導論?Piano pedagogyというクラスのプロジェクトの一貫で、

クラスの前で30分のピアノのレッスンを披露するというアサイメントがありました。

大学に集められた生徒さんの多くは、

州の中でも入学が難しい私学に通う小学校低学年の生徒さん。

ある日本人のクラスメイト2人が私のレッスンを見て

「褒めすぎだよ!先生なんだよ」とフィードバック。

12歳までしか日本に住んだ事がなかった私には抜けた感覚で

「そーお?」くらいの感覚でした。

数週間後。

次はクラスメイトの日本人が公開レッスンを担当する事となりました。

公開レッスン中、はっきりとしたきっかけは覚えていませんが、

ゲストで来てくれた小さな男の目には涙。

クラスが終わり見学をしていた男の子のお父さんは、

クラスを担当する先生よりも先に日本人のクラスメイトに小走りで会いに行き、

日本人の女の子を教室の端に呼び出します。

「君は指導の道に進むと思うから一言だけアドバイスをさせてくれ。

この経験は彼にとってプラスになったと思う。ありがとう。

だけど、君は子供をもっとレッスン中に褒めるべきだ。

僕はピアニストの元へ息子をレッスンに通わせたいじゃない。

こう思っている親は僕だけじゃないと思う。

僕はピアニストからピアノを学んでもいい。

でも子供には「先生」の元でピアノを学ばせたい。

みんなの前で30分レッスンをやりきった息子を一言褒めてあげて欲しかった。

息子は始めて来た場所で、初めての先生に、30分のレッスンをしてもらった。

君の指導にもしっかりとついていったよ。

十分に褒めるポイントが沢山だったと思うけど、どうだろう?」

教室の隅でお父さんから言われていた日本人クラスメイトが今度は涙を流していました。

「認める」

日本語:気づくこと、判断すること、受け入れること、評価すること

近い英訳:Acknowledge, recognize, know, accept, approve,

簡単そうで、難しい事です。

でも指導者としては生徒を認める、子供の存在を認めてあげるというのは、

彼らの成長にとても大切な事だと思います。

子供は親の力だけでは育ちません。

子供時代は連続体。

色々な方から得た愛情や経験が積み重なって大きくなっていきますよね。

アメリカのピアノ指導者団体の日本支部を任されていることもあり、

こちらのコラムでは、日本とアメリカを中立の立場にたって皆様にお伝えできればと思っています。

どうぞ引き続き宜しくお願いいたします!

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